たたもう一度の夢

トワイライト・コーブ・シリーズの3冊目です。華やかさはないけれど、傷ついた過去を持つ人々が優しく書かれた前2作も強く印象に残る本でした。今回のお話には前2作のヒロインたちもでてきて現在の幸せをおすそ分けしていってくれました。

 夫とともに不動産業を営み、元気な1人息子を育て、高級住宅地に住んで何不自由なく暮していたトレイシーは、夫グレンの突然の死によりすべてを失う。生前の夫には破産寸前なほど借金があったのだ。

トレイシーは資産を整理し、唯一残ったハートブレイクホテルを祖父母からの遺産により改装し、ホテルを営むことにする。 そこへ、かつてベストセラー作家として「1ダースの殺人」を書き、その模倣殺人とその被害者たちによる裁判でボロボロになったエドワード・ケインこと、ウェイド・マカリスターが、やってくる。

彼は「1ダースの殺人」の被害者たちへの罪悪感と彼を追いかけまわすマスコミとの攻防に疲れ果て、死に場所を探していたのだった。 オープン前のハートブレイクホテルに泊まりこんだウェイドは、テキーラでべろべろになりながら自分の死について考え、部屋に息づく何らかの存在を感じ、パニックを起こしそうになりながら久し振りにゆっくり眠るのだった。

1人でホテルの改装を行い、みず知らずの他人を家に招きいれるトレイシーを不安に思い、1週間滞在することにするウェイド。ホテルの雑用を手伝い、夢に出てくるエズラ船長の悲哀の物語をとりつかれたように書きながら、今まで感じたことのない感情をトレイシーとホテルに対していだきようになる。 次々を明らかになる亡き夫グレンの裏切りに、自らを楽観的な性格と称するトレイシーでさえもやけをおこしそうになったり、くじけそうになたりする。ウェイドとの関係についてもかなり慎重で、息子や義理の娘のこと、将来のこと、グレンとの結婚の失敗などど不安要素がいっぱいでなかなか踏み切れない。

 

なんか、人として当たり前な悩みや不安が新鮮で、お気楽に愛に突っ走るでなく自分の現在位置を測りながら進んでいく姿勢がよかったですね。 ウェイドとトレイシーは一度は結ばれながらも、ウェイド側の都合、常に逃げ続けたり人目を気にしたり、により別れることになる。気持ちが沈むトレイシーを支え励ます家族や友人がとても温かい。 登場人物が全員ハートブレイク中で、全員が何らかの形で立ち直っていくのを1つにまとめられたのはけっこうすごいことなんだよなあ、と思います。 しみじみと良い話でした。